陸自妻的官舎ノ日々

特に役にもたたない自衛隊や官舎の話をつらつら綴っています。

虫は美食家

先日、夫が職場からとうもろこしを持ち帰ってきた。
同僚の方が家庭菜園で作ったものだという。
外側の皮を剥いてみると、一部虫に食われていた。
でも、収穫から茹でるまで数日間あいていたにも関わらず、とても甘くて美味しいとうもろこしだった。
とうもろこしは収穫した瞬間からどんどん甘味が落ちるというから、もぎたてはさぞや美味しかったのだろう。
虫が食べるということは、無農薬で美味しい証だとうちの夫は信じている。

自然界の生き物は、一番美味しいところを知っている。

そう思うたび、脳裏に甦るひとつの出来事がある。

あれは、夫と結婚した年の9月だった。
プロポーズされて、三連休を利用して夫の実家へ挨拶に行き、夫の一人暮らしの家へ帰って来た日。
ふと、台所に置きっぱなしにされている米袋が目についた。
「ねぇ、あれじゃお米に虫がつかない?米びつ使わないの?」と言うと、夫は「ちゃんと口を閉めているから大丈夫」と答えた。
確かにそういうやりとりがあった。

その後、夫が買い物に行く間私が夕飯を作ることになったのだが、米袋から計量カップで米を掬い出し、ふと気づいた。

米が…動いてる…?

違う。
米の隙間で白く小さいイモムシのような虫が無数に蠢いているのだ。そして先ほどその米の中に手を突っ込んだと気付き、一瞬で背筋がゾワッとした。

嘘つき!ガッツリ虫湧いてるじゃん!!

ひとまず一食分のお米を洗って炊いてから、帰って来た夫にそう訴え、残りの米はどうするのか問うた。
米袋には、あと数キロ分ほど残っている。
30キロの米袋からすればわずかな量だが、捨てるには多い。
夫はこともなげに答えた。

「もちろん食べるよ」
「虫は?」
「取るよ」
「どうやって?」
「一緒に取ろう」
「はい!?」

その夜、米の選別作業が行われた。
透明なゴミ袋を切り開いてシートにして、夫がその上に米を少しずつ広げ、私が割り箸で虫を一匹一匹取り除いていく。
作業しながら、芥川龍之介の「鼻」という小説を思い出した。

「二人の初めての共同作業だね」

そんなこと言われてもまったく嬉しくない。
ケーキカットより先に虫ピックをすることになるとは。

そして無事選別されたお米を食べてみれば、いまいち美味しくない。
よくよく見ると、虫はお米の中心の一番美味しいところだけを食べていったらしい。
私たちは、虫の食べ残した部分を食べるはめになったということだ。

この一件を通じてわかったことがある。

虫がつくのは、無農薬で美味しい証拠。
でも、虫に食われた後はいまいち美味しくないのだということ。

入籍して一緒に住むとき、私の家からは米びつを持っていった。
その米びつは、引っ越した今も使っている。